藤原京跡のベンチに座ると、空が広い。
カラスも飛ばず、人もまばら。
菜の花の匂いにまじって、どこか懐かしいような風が吹いてくる。
この空の下で、かつて五人の女性が国の舵をとっていた。
推古、皇極(斉明)、持統、元明、元正。
彼女たちはみな、「天皇」という肩書の下に立っていたけれど、
その中身は実にさまざまだった。
推古天皇。
日本で最初の女性天皇。
「女が天皇に?」という声もあっただろうし、
「大丈夫なんだろうか」と不安げに見ていた人もいただろう。
でも、推古さん本人は意外と肝が据わっていたんじゃないかと思う。
聖徳太子という若くて切れ者の甥を信じ、
「じゃあ、あんた、こういうの得意そうだからやってみなさい」って、
ぐっと任せて見守るような度量の広さがあったんじゃないかな。
たぶん夜は味噌汁をすすりながら、「あの子、今日も生意気だったな」なんて
ひとりごちてたんじゃなかろうか。
皇極天皇/斉明天皇は、
同一人物だけど、即位のタイミングが違うと雰囲気も変わる。
最初はちょっとおっかなびっくり。
「えー…私がやるの? 本当に?」って思っていたかもしれないけど、
再び即位したときはもう覚悟が決まっていた感じ。
馬で各地を回ったり、土木工事に力を入れたり。
「私、じっとしてるの向いてないのよ」って
言いながら長靴をはいて現場に行くタイプだったかもしれない。
持統天皇はその次。
この人は、ずばり“戦略家”。
夫・天武天皇の死後、その遺志を継ぎながら、
でもきっちり自分の手で制度も都も整えていく。
藤原京を建設し、律令制度をまとめ上げた人。
日記とか、メモとか、びっしりつけてそうなイメージ。
「今日、○○の案は却下。△△案採用。理由:こっちの方が現実的」みたいな。
おそらく几帳面で、朝も早起き。
でも夜には小さな火鉢の前で、「今日もまあ、よう頑張った」と
おちょこをくいっと傾けてたらかわいいなぁ、と思う。
元明天皇と元正天皇は、
ちょっと似ているようで、違う色合いのふたり。
元明さんは、持統天皇の娘。
一度引退した持統からバトンを受け取る形で即位したけど、
「本当に私でいいのかしら」と、最初は不安もあったんじゃないかな。
でも、ちゃんとやった。
藤原不比等らの力も借りながら、**『古事記』や『風土記』**をまとめさせ、
唐との関係も再構築していく。
「物語のかたちで、この国を未来に残したい」――そんな思いがあったんじゃないかと思う。
元正さんは、その娘。
母から政務を学び、自然と準備ができていたのかもしれない。
どこか素直で、けれど芯は強く、
「私は、私らしくやるだけです」って静かに語るような人だったのでは。
きっと花が好きで、
「今年の梅は早いですね」と庭を歩くのが日課だったに違いない。

こうして春の風に吹かれながら、彼女たちのことを考えていると、
なんだか遠い昔の人じゃないような気がしてくる。
名前も、時代も、冠も脱いで、
ふつうに誰かの娘であり、誰かの母であり、
ひとりの人として、国を思って悩んでいた――そんなふうに想像すると、
歴史って、もっと身近に感じるのです。