秋の飛鳥を歩くと、どこからともなく甘い香りが漂ってくる。金木犀の名残か、それとも熟れた柿の香りか。そんなことをぼんやり考えながらぶらぶらしていると、ふと目の前に鮮やかな黄色が飛び込んできた。
それが、橘寺の大イチョウ。
まるで大空を支えるかのようにどっしりと立ち、枝いっぱいに黄金の葉をまとっている。その堂々とした姿に、思わず「おぉ」と声が漏れてしまった。
この大イチョウ、樹齢はおよそ千年とも言われている。聖徳太子ゆかりのこの寺とともに、長い長い時間を過ごしてきたのだろう。春も夏も、きっと美しいのだろうけれど、やっぱりこの季節がいちばんの見どころだ。
幹を見上げると、どっしりとした樹皮の間から新しい枝が力強く伸びている。空に向かって手を広げるように、精一杯陽を浴びて輝いているようだった。
足元に目をやると、落ち葉のじゅうたんがふかふかと敷き詰められている。風が吹くたび、ひらひらと葉が舞い落ちる。そのたびに、黄色い光がちらちらと揺れ、まるで時間がゆっくり流れているかのような気分になる。
しばらく見上げたまま立ち尽くしていたけれど、ふと「このイチョウは何を見てきたのかな」と考えた。千年もここに立っているなら、どれだけの人がこの木の下で足
を止め、何を想っていたのだろう。
そんなことを考えていたら、ちょうど風が吹いて、一枚の葉が肩に落ちてきた。まるで、「また来なさいよ」と言われたみたいで、なんだかうれしくなった。
秋の飛鳥は、やっぱりいい。
