ぶらり明日香さんぽ

古代史のふるさと 明日香村 をのんびり散歩しながら、四季の風景やちょびっと歴史に触れるブログです。気ままに歩き、ときどき別の町へもぶらり旅。明日香の魅力をゆるりとお届けします!

第77回正倉院展に行ってきた

正倉院展の季節になると、奈良の空気が少しだけきりっとする。朝晩の風に冷たさが混じりはじめ、木々が色づくころ、奈良国立博物館の前には、静かな期待が流れている。

今年の展示には、深い瑠璃色の杯や、香り高い「蘭奢待」など、名の知れた宝物たちがずらりと並んだ。どれも千年以上の時を越え、奇跡のように現代に姿を見せてくれる。あの青の深さや、香木のかすかな甘さには、人の営みを超えた時間の層が感じられる。思えば正倉院の宝物は、単なる美術品ではなく、聖武天皇光明皇后の祈りのかたちそのものだ。

昭和二十一年、戦争の焼け跡のなかで始まった第一回正倉院展。当時の人々は、失われた誇りをこの宝物に見いだそうとしたという。敗戦の痛みの底で、千年を生き抜いた美に触れたとき、どれほど心が慰められたことだろう。そう思うと、今のにぎわいも、その延長線上にあるのかもしれない。

瑠璃坏をあしらった記念弁当と、純米酒のコップ。展示を見終えたあとの小さな宴が、奈良の秋をさらに深くしてくれる。

えびや牛肉、旬の野菜の天ぷらに五穀米。桃谷樓の滋味あふれるお弁当は、秋の奈良にぴったりのごちそう。

博物館を出ると、正倉院展恒例の薬膳弁当が待っている。今年も桃谷楼の特製。えびや牛肉のうま煮、野菜の天ぷら、そして五穀米。ひと口ごとに滋味が広がる。コップ酒を二杯ほどゆっくり飲めば、体の芯がじんわり温まってくる。

博物館の前で物思いにふける鹿。どこか人間よりも落ち着いて見えるのは、長い歴史を見てきたからかもしれない。

食後は奈良公園をぶらぶら。鹿がこちらをじっと見つめてくる。どこか悟ったような顔をしていて、少し笑ってしまう。古都の秋は、静かで、少し切なくて、どこか懐かしい。

一年に一度のこの日。千年の時を越えて伝わる宝物と、ほのかな酒のぬくもりと、鹿の瞳。そのすべてが、秋の奈良の風の中で、やわらかく混じり合っている。