
ベランダに腰かけて、シャインマスカットをひとつ口に入れる。
甘さが舌にひろがって、すぐさま冷たいアイスティーをひとくち。
ああ、これは相性抜群。ワインとはまた違う、昼下がりの幸せな組み合わせだ。
万葉文化館の近くに小さな葡萄園があって、毎年、夏から秋にかけて直売が始まる。狭い駐車場には、ひっきりなしに車がやってきては葡萄を抱えて帰っていく。奈良盆地の暑い夏を超えて実った巨峰やシャインマスカットは、いわば小さな宝石みたいなものだ。

葡萄を食べながら思い出すのは、やっぱりこの土地の歴史のこと。藤原京の時代にも、人々は果樹を育てていたのだろうか。『日本書紀』には、推古天皇のころに「葡萄を献じた」という記録が残っている。中国大陸から伝わった珍しい果物として、当時の人びとには驚きと憧れの味だったに違いない。
藤原宮の宴席に、冷たい葡萄の実が大皿に盛られて並んでいたと想像すると、なんだか楽しくなる。氷室の氷は貴族の特権だったけれど、葡萄の甘みを楽しむ感覚は、千三百年前も今もそう変わらないのではないだろうか。
アイスティーの琥珀色を透かして眺めていると、光の加減でまるで古代の玉器(ぎょくき)のようにも見えてくる。甘さと渋みが入り混じるその味わいは、どこか歴史と似ている。ひとすじに甘いだけではなく、渋みもあって、だからこそ深い。
葡萄の粒をひとつ、またひとつ。
ほんの少しほろ酔いになったような気分で、午後のひとときが過ぎていった。